日本人の平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳(厚生労働省平成30年簡易生命表)。また、日常生活に制限のない期間の平均、いわゆる健康寿命(*)は男性72.14歳、女性74.79歳といずれも前回数値を上回っており、本腰を入れて人生100年時代の資産形成について考える必要が出てきたといえそうです。
(*)厚生労働科学研究「健康寿命の全国推移の算定・評価に関する研究 -全国と都道府県の推移-平成29年度分担研究報告書」
2016年11月に『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 著 池村千秋 訳 東洋経済新報社)が発売されたことで“人生100年時代”という言葉が広く使われるようになりました。
人生100年時代とは、教育→仕事→引退という従来の人生の3ステージから、何回も学び直したり、仕事を変えたり、複数の仕事を同時に経験したり、自分探しの旅に出たりといったさまざまなステージを過ごす“マルチステージ”が基本の時代と本書では説明しています。
世界でも類を見ない長寿国の日本は新たな時代を世界に先駆けて経験することになります。そこで日本政府は有識者議員に本書の著者のひとりリンダ・グラットンや、世界最高齢プログラマーとして知られている若宮正子氏らを迎え、2017年9月に「人生100年時代構想会議」を立ち上げました。人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策の全体構想に係る検討を行うことが目的です。
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 著 池村千秋 訳 東洋経済新報社)によると、人生100年時代のマルチステージで選択肢をふやすために必要なのが“無形資産”です。無形資産とはお金や不動産といった“有形資産”に対し、仕事の成功に役立つ“生産性資産”、やる気をかきたて前向きな気持ちにしてくれる“活力資産”、変化に柔軟に向き合うための“変身資産”の3つの資産の総称です。
生産性資産 | スキルや知識、仲間、評判など、仕事の成功、所得を得るために必要な資産 |
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活力資産 | バランスがとれた生活、家族、友人、精神面・肉体面の健康など、心身の健康を維持するための資産 |
変身資産 | 自己理解、人的ネットワーク、新しいことに対する柔軟性と行動力など、変化していくことが当たり前の時代に必要な資産 |
(参考)『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 著 池村千秋 訳 東洋経済新報社)
これらの資産を築き上げるためにも有形資産である「お金」は重要です。家族で助け合って家計を支えたり、資産運用でお金をふやしたり、あるいは目減りを防いだりすることで、無形資産に投資をし、それが新たなステージで新たな収入を生むことに繋がります。
これからの資産形成はライフイベントのためだけではなく、無形資産を構築・発展させるために資産形成をするという新発想が必要かもしれません。
人生3ステージ時代の資産形成は、主に老後資金の準備が目的でした。マルチステージでは、変化を生き抜くために必要な無形資産を構築・発展させるという視点が目的に加わります。
3ステージの「引退」が視野に入ってきている50代は、仕事、暮らし、学びなど今後のライフプランを再度見直し、将来の収支を具体的に把握しておく必要があります。この世代が検討する資産形成法は、長寿に備える長期の資産形成に加え、資産寿命を延ばすための運用、分配金や配当金など定期的な収入を得られるような運用も一考です。
一方、マルチステージではライフイベントの出費以外に、転職に伴う収入減のカバーや学びのための予算が必要になるため、継続的に資産形成をしていても取り崩しが多くなることが予想されます。現役世代真只中の20~40代を中心にそのことを視野に入れた資産形成を考える必要があるでしょう。
このように、マルチステージの資産形成では、どの世代も比較的安定的でかつ長期的な視点を基本にした資産形成を考える必要がありそうです。
(参考図書)
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 著 池村千秋 訳 東洋経済新報社)
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基準日:
(2024年1月4日現在)